小説「鎌倉の怪人」連載記念 松宮流小説の作り方 その12

物語空間にさまよう会話。主線と空間のずれ

わたしがはじめて生で落語を聞いたのは高校一年生のとき。
 突然休講になったかなにか、 落研の同級生が 「落語でも一席」と教壇に正座した。
ネタは「青菜」だった。
 植木屋さんが主人公。初心者用のネタらしいが、面白かった。 
浄光明寺の柏槇、切り岸の庭、と考えているとき、この記憶がひょいと出てきて、怪人の職業が植木屋となった。
 小説を書く際、第一稿は構想でなく叙述と展開、リズムとビート。
 記憶のどこかとどこかがつながる。
作家は自動速記マシーン、夢に追われるように筆を進める。
取材は後ほど。
会ったことない人、行ったことない場所・・
知らない部分は作ればいい。
 でもふと思い立ち、枝雀さんの「青菜」を聞く。まくらがおもしろい。 同級生の話にまくらはなく、旦那さんが「あ〜、植木屋さん」と呼びかけるところから始まったが、枝雀落語では昔の植木屋さんの情景が目に浮かぶ。
 怪人の物語は昭和44年。 語り口調、そのまま借りちゃおう。 怪人のイメージと昔の記憶と落語の枕。断片と断片。 絵が湧く。
 第一稿なので最終的には変更するかもしれませんが、ハマった。 
基本的にかみ合わない立場間の会話を書くのはホント面白い。
怪人と富五郎の会話もそのひとつ。 会話が謎の空間へ飛ぶ。 野田秀樹さんの芝居を最初に見たときに感じた芝居夢空間。その心地よさも思い出しながら。
 物語空間を謎にさまよう会話。
主線と空間をずらしてみる。
枝雀さんのまくらから拝借し、こんな会話にした。 
「カモノタダユキさんは、何者ですか? そこで何をしていらっしゃる」
 「ま、そうじゃの。庭医師とでも言っておこうか。もくせい、もっこく、かし、かなめ、きんもくせい、ぎんもくせい、さざんか、椿、さつき、ひらど、さるすべり、松、桜、桐、梅、ぼうず」
「ぼうず?」
「葉見ず花見ず彼岸花」
 「・・・」
 「われは鎌倉山の樹木を守る庭医師である」 
実際のまくらでは 「ぼうず?」のあと「ぼうずはない」と続くのですが 彼岸花が浮かんだのでそこは花言葉を書いた。
 この会話。 物語の筋とは関係ないし、第二稿でばっさり削除、候補となる箇所ですが個人的には残したい。 え〜、 小説なんて個人的なものじゃないの〜  残す残さないは自分で決めればいい・・ですが、読者はこの部分でビートを感じるか、本を閉じたくなるか・・推敲するんですね。
これ大事。
 エルモアレナードの小説なんかには、こういった微妙に時間空間がずれた会話がいっぱい出てくるし、そこにはビートがうねっている。
わたしはそれが好きでたまらない。
自由自在にあやつれるように、とにかくいっぱい書いてモノにしたい。
 好きこそものの上手なれ、となるように。

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