新潮社、よくやった。神楽坂のラカグ。

新潮社とサザビーリーグ鈴木陸三さんのつくったお店が実現した。何がすごいって? 老舗出版社が作ったことだ。価値創造は小売からの時代。そこに投資を決断した。
「新潮社さん、よくやった!」
言わずとしれた老舗出版社。私も2000年度のファンタジーノベルでお世話になった。最終選考のベスト4で文壇評価まで登り、とくに井上ひさしさんに推してもらえたことが、プロへの第一歩となった。「この賞を取りましょう」と一緒にがんばってくれた。新人小説家として最初の出会いが新潮社だったことはとても良かった。敷居が高い出版社がアマチュアの私に編集担当者を付けてくれ、最後は神社で必勝祈願もしてくれた。
さらに言った。
「2冊目が書けない作家が多いので、デビュー時には5冊分書き上げておいてください」。書いた。そのうち3冊が世に出ている。
 
今、最初の本「こいわらい」を読むとこっぱずかしい。気持ちが前に出すぎているのがわかる。
しかし最初はそんなものでしょう。とにかくそれ以後書き続けている。多少は文章家らしいものが書けるようになったとは思うが、文章表現は書いても書いてもむずかしい。どこまで行っても三島由紀夫的表現にはたどりつけないだろうけど、最初のタイミングで編集者に言われたことが、生涯を通して書き続ける肝を据えることにつながったことは確かだ。

その新潮社がこんな店を出した。
メディアは変わった。本は売れない。出版社はどうすべきか。もちろん会社ごとに個性があって、さまざまな生き方はあるだろうけど、ラガクはひとつの解決策を見事に示した。
出版社こそ生活者の文化をになうプロデューサーになるべき。
企業タイアップ、おまけ付きの雑誌・・出版人の魂を売り飛ばしてほしくない。
店は運営し利益を上げ続けなければならないが、そこにはサザビーがいる。
新潮社は文化の香り、本好きの顧客が毎日行きたくなるような気分を紡いでいってほしい。
売れ筋の本はどこでも買える。
本好きの魂が震えるような、そんな風に、お店に手垢を付けていって欲しい。ゆめゆめ、Tサイトにはならぬように。

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