アイスホッケーの魅力解説と、ピョンチャン冬期五輪観戦ガイド

アイスホッケーの魅力解説と、ピョンチャン冬期五輪観戦ガイド

アイスホッケーの魅力

スポーツはざっくり大別すると陸上などのアスリート系、格闘技系、そしてボールゲームですが、人気が高く給料をいっぱい稼げるプロがいるのはチーム対抗のボールゲーム(球技)です。世界中で普及するサッカーがあり、アメリカには4大プロスポーツ、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)、NBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)、MLB(メジャー・リーグ・ベースボール)と並んでNHL(ナショナル・ホッケー・リーグ)があります。

 アイスリンクの大きさは60メートル×30メートルでバスケットボールコート4つ分です。たたみなら1500畳。ゴールの大きさは幅1.9メートル×高さ1.2メートルです。
 試合は1ピリオド20分を3回。プレーが止まると時計も止まるので、実際の経過時間は40〜45分くらいとなり、サッカーの前後半と変わりません。しかしそれを3回やります。
プレーヤーはひとチーム6人。センタープレーヤーが両サイドにフォワードを従え、ディフェスは右と左に1名ずつ、そしてゴールキーパー(ゴーリー)。試合開始は向き合ったふたりの選手間に審判がパックを落として取り合う「フェイス・オフ」ではじまります。
ゴーリーを除く5名は攻めたり守ったり臨機応変に動きます。ディフェンスだってサッカーより断然得点に絡みます。
 腰を落とし膝を曲げた姿勢で、ダッシュ、ストップを繰り返し、接触プレーも多く体力の消耗が激しいので、選手の交代はいつでも何人でも何回でもオッケーです。審判の許可を得る必要はありません。1分間も動いたらヘロヘロになるので、めまぐるしく交代します。
 氷の上なので履くのはスケート靴です。陸上スポーツと違ってスケートはまっすぐだけではなく斜めに、うしろにも滑れます。うしろ向きにも前と同じくらい速く滑る選手もいます。小回りが利くように、ハニュウ君やマオちゃんのフィギュアスケートと比べるとホッケー靴の歯は短めになっています。(スピードスケートはいちばん長い)。選手は自分好みの滑り具合にするため一週間に一度は歯を研ぎます。板前の包丁と同じです。トップ選手のスケーティングスピードは男子で時速40キロ、女子でさえ20キロ以上出ます。
 前後左右にも速く走れるという点こそ、他のボールゲームといちばん違うところです。ドリブルやフェイントがうまい選手が、サッカーでいえばメッシやネイマールが超絶ドリブルでかわす、というプレイはホッケーではなかなかにむずかしい。ディフェンスはバックスケーティングでもスピードが落ちず、ボディチェックもできる(からだを押さえ込みにいにいく)からです。一対一の局面ではなかなか抜けません。だから選手はいろいろなプレイを考え、組み合わせるのです。
 ボールの代わりに使うのは円盤状の硬質ゴムで作られたパックと呼ばれるものです。大きさは直径7.62センチメートル、高さ2.54センチメートルで、170グラム。パックを操るスティックは先端がくの字に曲がる板状カーボン素材で大きくしなります。パックをスティックのしなりで思いっきり打つと男子プロなら時速180キロメートル。野球のピッチャーでもこのスピードは出ません。ピッチャーライナーのスピードで、鯖缶くらいの大きさと重さのパックが飛んでくる、そう思えば、迫力もわかるでしょう。冷やした方が滑るので公式試合に使うパックは零下7度で保存されています。
 猛スピードでぶつかり合う迫力は半端ありません。男子プロでは殴り合いさえ公認されています。ボクシング以外のスポーツではアイスホッケーのみルールで規制されていないのです。脳しんとうの危険が認識されルールも改正の方向にありますが、チームメイトが激しいヒットを受けて怪我をしたとかしそうになったりすると、ベンチから全員飛び出しての殴り合いになります。身長が190cm以上で体重が100kgを超えるプレイヤーもざらにいます。ボストン・ブルーインズのキャプテン、ズデーノ・チャラは身長が211cm、体重が115kgの巨漢。レスラーのようなプレイヤーがフルスピードでぶち当たるのです。ボディチェックが反則にならないという意味では、サッカーよりラグビーに近いスポーツかもしれません。ただし露骨な暴力やスティックで足を引っかけたりすると2分間の退場となりペナルティボックスに入ります。相手を出血させたりしたら5分間の退場。ファアプレーの基準点はしっかり持っています。相手が退場したらパワープレイという大チャンス。ゴーリーをベンチに戻し6人攻撃でたたみかける戦術があります。
 選手は身を守るためユニフォームの下はパットで完全防備、顔面シールド付のヘルメットに頑丈なグローブを着けています。プレーヤーの防具は着けてみればわかります。たいして重くない。スイスイ滑れる。しかしプロテクション能力はしっかりしています。防具をきっちり着けてさえいれば、倒され転かされひっくり返っても痛くありません。だからプレーヤーはすぐ立ち上がって走るのです。接触プレーごとに痛い痛いと泣き言を垂らすサッカーとは違うのですね。
 
©creative commons
 ただし、ゴーリーだけは重装備です。危険なポジションで、プレーヤー用の防具では死んでしまいます。手の甲や足に特殊なパッドを装着し、利き手に専用のスティックとブロッキングパッド、反対の手にはキャッチンググローブ、足にはウレタン製の大きなレガースを着けています。プレーヤーより防具も靴も頑丈に作られていて、防具の重さは20kgもあります。重たい防具を着ているのに、さまざまな姿勢でシュートを防がなくてはならないため、力持ちの上からだの柔らかい人が選ばれる傾向にあります。小さなゴールに大きなゴーリーがいるとすき間が少ないです。それで選手はパックを浮かせて肩口を狙ったり、股の間、味方のシュートをスティックに当てて軌道を変えたり、シュートフェイントでタイミングをずらせたり、ありとあらゆる工夫で得点を狙うのです。
 リンクの周囲は高いフェンスに囲まれています。ゴール裏にもフェンスがあって跳ね返ってきます。シュートが外れても、パックが外へ出ないのでプレーが止まりません。わざと壁にバウンドさせるパスも可能です。手や足を使ってパスもできます。
 北米プロリーグやオリンピックではスピード感に溢れた美しいプレイがいっぱい出現します。本当に美しい!
 世界最高リーグ以外の試合だって楽しい。学生リーグで、特に下部リーグではチームに6人ぴったりしかいないこともあります。一試合を通じて交代なし。地獄です。しかし見ている方は「がんばらんかい」と声援を送るのです。(人の苦労は見ていて楽しい)また下部リーグの試合なら観客席に座らず。リンクサイドで観ることもできたりします。フェンスから体を乗り出せば目の前を選手が走り、冷気が風に舞います。プレイが一流でなくとも、アイスホッケーの迫力を肌身で感じることができます。下手クソだからこそボディチェックが多発し、一触即発になることが多かったりします。それも他人事。「やれんかい!」と声援を送ります。
 プレイの自由度が高く、最高のスピードがあり、格闘技的要素が詰まったボールゲーム。それがアイスホッケーです。



冬期オリンピック女子アイスホッケー観戦ガイド

2017年2月にオーストラリアで行われた世界選手権ディヴィジョン1(2部にあたる)でスマイルジャパンは全勝し、次回の世界選手権でトップディヴィジョン(1部)に上がりましたが全敗して降格しました。そしてソチ五輪も全敗。しかし昨年、ディヴィジョン1で全勝してトップディヴィジョンに復活しました。トップに上がってもまた全部負けるんじゃないの? いえいえ、チームはほんとうに強くなっているのです。平昌オリンピック予選を勝ち抜き本戦出場権を獲得し、その年の世界選手権ではゴーリーの藤本奈那が最優秀ゴーリーに選ばれるまでになりました。
 女子のトップはずっとアメリカとカナダです。世界ランクの1位と2位を入れ替わりながら切磋琢磨しています。ヨーロッパの強豪国もこの2強には長年勝てないでいます。ところがスマイルジャパンは2016年の末、カナダ女子プロリーグに所属するニューヨーク・ラペターズと2試合練習試合をして、2試合とも勝ちました。
 五輪直前の国際壮行試合もランク上の、ロシア、ドイツ、チャコに5連勝しました。
 なでしこジャパンの奇跡は記憶に新しい。
勝てない敵に勝つ事も、もはや夢ではないところまで来ているのです。
 さあ、平昌オリンピック。
 がんばれ、スマイルジャパン。




スマイルジャパンをモデルにした小説「スマイル」
漫画バージョンは、はたのさとし作







コメント

人気の投稿