日系移民作家ジョー・イデが書いた、すてきなアメリカン・ピカレスク「IQ」

 図書館でふと見つかる類の小説。本屋ではまず売っていないだろう、と思う。 

主人公は、ロングビーチのヤバイ地区で生まれ育つ黒人の探偵アイゼイヤ。暴力やドラッグ、とにかく悪いことだらけのストリート描写もリアル。相棒のドッドッソンは、ホームズならワトソン博士にあたるが、ドッドソンもストリート育ち、人生がうまくいかず、ドラッグを売って生計を立てるしかない。それで仕方なくこのふたり、高校生にして空き巣強盗になるが、アイゼイヤは頭脳明晰かつ慎重、泥棒稼業でさえやり遂げ、
怪盗として名を馳せ、警察に追われる。
その頭脳があるからして、さまざまな災難がくり返さていくわけだが・・・僕は読み進めながら興奮した。ああ、ロスだ、悪い事だらけだ。でも正義を貫け!  がんばれ、やりぬけ。

こういう設定なのに、書いたのは日系人作家だという。ジョー・イデ(井出さん?)。彼はロサンゼルスのサウス・セントラル地区出身らしい。だからこれほどまでリアルに書けるのだ。僕はつごう70回ほどロサンゼルスへ出かけたけれど、サウス・セントラルに用事はなかった。車で通り過ぎた景色を覚えているくらい。車窓からみるだけでも、視線さえやばくてどきどきしてしまった。映画やテレビ、ニュース(暴動が何度かあった)で見聞きし、記憶と重ね「アメリカはやっぱりすごい国だ」と思ったりする。自分ごとにはならないが、犯罪小説好きとしては興味深い。

 

小説「スマイル」でサウス・セントラル地区のことを少し書いてみた。

「スマイル」は若いアスリートの冒険小説で、主人公は女子アイスホッケー日本代表「スマイルジャパン」のエース。物語の展開で、ロサンゼルスのアイスホッケー・プロチーム「キングス」とステイプルズ・センターで試合をすることになるのだが、マッチメイクは陰謀でもあり、ラスベガスやサウスセントラルでの事件も関わってくる、というような(自分なりの)妄想話。 

 

「IQ」も小説だから妄想だろうが、描写はリアルだ。何せイデさんはやばすぎる地区に住んでいるのだから。

 

でもそのことで、こういう本が図書館の片隅にあり、ほぼ借りられることもなく居る、という状況にもなるのかもしれない。 一般の読者が、「IQ」のストーリーに感情移入すること、そこへ至るきっかけさえ、どこに落ちているというのか。でも、読書の楽しみってこういうことでしょう。僕はこういう物語を見つけたいのです。読みたいのです。そして書きたい。イデさん「IQ3」もぜひお願いします。 



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