物語空間にさまよう会話。主線と空間のずれ
わたしがはじめて生で落語を聞いたのは高校一年生のとき。
突然休講になったかなにか、
落研の同級生が
「落語でも一席」と教壇に正座した。
ネタは「青菜」だった。
植木屋さんが主人公。初心者用のネタらしいが、面白かった。
浄光明寺の柏槇、切り岸の庭、と考えているとき、この記憶がひょいと出てきて、怪人の職業が植木屋となった。
小説を書く際、第一稿は構想でなく叙述と展開、リズムとビート。
記憶のどこかとどこかがつながる。
作家は自動速記マシーン、夢に追われるように筆を進める。
取材は後ほど。
会ったことない人、行ったことない場所・・
知らない部分は作ればいい。
でもふと思い立ち、枝雀さんの「青菜」を聞く。まくらがおもしろい。
同級生の話にまくらはなく、旦那さんが「あ〜、植木屋さん」と呼びかけるところから始まったが、枝雀落語では昔の植木屋さんの情景が目に浮かぶ。
怪人の物語は昭和44年。
語り口調、そのまま借りちゃおう。
怪人のイメージと昔の記憶と落語の枕。断片と断片。 絵が湧く。
第一稿なので最終的には変更するかもしれませんが、ハマった。
基本的にかみ合わない立場間の会話を書くのはホント面白い。
怪人と富五郎の会話もそのひとつ。 会話が謎の空間へ飛ぶ。
野田秀樹さんの芝居を最初に見たときに感じた芝居夢空間。その心地よさも思い出しながら。
物語空間を謎にさまよう会話。
主線と空間をずらしてみる。
枝雀さんのまくらから拝借し、こんな会話にした。
「カモノタダユキさんは、何者ですか? そこで何をしていらっしゃる」
「ま、そうじゃの。庭医師とでも言っておこうか。もくせい、もっこく、かし、かなめ、きんもくせい、ぎんもくせい、さざんか、椿、さつき、ひらど、さるすべり、松、桜、桐、梅、ぼうず」
「ぼうず?」
「葉見ず花見ず彼岸花」
「・・・」
「われは鎌倉山の樹木を守る庭医師である」
実際のまくらでは
「ぼうず?」のあと「ぼうずはない」と続くのですが
彼岸花が浮かんだのでそこは花言葉を書いた。
この会話。
物語の筋とは関係ないし、第二稿でばっさり削除、候補となる箇所ですが個人的には残したい。
え〜、
小説なんて個人的なものじゃないの〜
残す残さないは自分で決めればいい・・ですが、読者はこの部分でビートを…