小説家によるアイスホッケー観戦ガイド2025
小説「スマイル」巻末付録(+2025情報)
ルール、いまひとつわからん、どう見たらいい? という方は読んでみてください。
最高速のボールゲーム
アイスリンクの大きさ
60メートル×30メートルでバスケットボールコート4つ分。 たたみ1,500畳。ゴールの大きさは幅1.9メートル×高さ1.2メートル。
試合は1ピリオド20分を3回。プレーが止まると時計も止まるので、実際の経過時間は40〜45分くらいとなり、サッカーの前後半と変わらない。しかしそれを3回やる。
プレーヤーはひとチーム6人
センタープレーヤーが両サイドにフォワードを従え、ディフェスは右と左に1名ずつ、そしてゴールキーパー(ゴーリー)。
試合開始は向き合ったふたりの選手間に審判がパックを落として取り合うフェイスオフではじまる。ゴーリーを除く5名は攻めたり守ったり臨機応変に動く。ディフェンスだってサッカーより断然得点に絡む。(ソチ五輪スウェーデン戦の1点目はDFの小池選手:現キャプテン)
腰を落とし膝を曲げた姿勢で、ダッシュ、ストップを繰り返し接触プレーも多い。体力の消耗が激しいので、選手の交代はいつでも何人でも何回でもオッケー。審判の許可を得る必要はない。
1分間も動いたらヘロヘロ
めまぐるしく交代する。
氷の上なので履くのはスケート靴。陸上スポーツと違ってスケートはまっすぐだけではなく斜めに、うしろにも滑る。うしろ向きにも前と同じくらい速く滑る選手もいる。(フィギュア見てたらわかるよね)ホッケーはフィギュアとは違った小回りが利くように、靴の歯は短めになっている。選手は自分好みの滑り具合にするため頻繁に歯を研ぐ。板前の包丁と同じ。
という点こそが、他のボールゲームといちばん違うところ。ドリブルやフェイントのうまい選手が、サッカーでいえばメッシやネイマールが超絶ドリブルでかわす、というプレイはホッケーではむずかしい。ディフェンスはバックスケーティングでもスピードが落ちず、ボディチェックもできるからだ。1対1の局面ではなかなか抜けない。だから選手はいろいろなプレイを考え、組み合わせる。
ボールの代わりに使うのは円盤状の硬質ゴムで作られたパックと呼ばれるもの。
大きさは直径7.62センチメートル、高さ2.54センチメートル、170グラム。パックを操るスティックは先端がくの字に曲がる板状カーボン素材で大きくしなる。
スティックを表情でしならせその勢いのままパックを打つ。男子プロなら時速180キロメートルに達することもある。野球のピッチャーでもこのスピードは出ない。
ピッチャーライナーのスピードで、鯖缶くらいの重さが飛んでくる
と思えば、迫力もわかるだろう。冷やした方が滑るので公式試合に使うパックは零下7度で保存されている。
猛スピードでぶつかり合う迫力は半端ない
男子プロでは殴り合いさえ公認されている。ボクシング以外のスポーツではアイスホッケーのみ、ルールで規制されていない。脳しんとうの危険が認識されルールも改正の方向にあるが、チームメイトが激しいヒットを受けて怪我をしたとかしそうになったりすると、ベンチから全員飛び出しての殴り合いになる。
身長190cmル以上体重100キロを超えるプレイヤーもざらにいる。ボストン・ブルーインズのキャプテン、ズデーノ・チャラは身長211cm、体重が115キロある巨漢。レスラーのようなプレイヤーがフルスピードでぶち当たる。
ボディチェックが反則にならない
という意味では、サッカーよりラグビーに近いスポーツかもしれない。ただし露骨な暴力やスティックで足を引っかけたりすると2分間の退場となりペナルティボックスに入る。相手を出血させたりしたら5分間の退場。ファアプレーの基準点はしっかり持っている。相手が退場したらパワープレイという大チャンス。ゴーリーをベンチに戻し6人攻撃でたたみかける戦術もある。
選手は身を守るため完全防備
ユニフォームの下はパット、顔面シールド付のヘルメットに頑丈なグローブを着けている。
プレーヤーの防具は着けてみればわかる。たいして重くない。スイスイ滑れる。しかしプロテクション能力はしっかりしている、防具をきっちり着けてさえいれば、倒され転かされひっくり返っても痛くない。だからプレーヤーはすぐ立ち上がって走るのだ。接触プレーごとに痛い痛いと泣き言を垂らすサッカーとは違う。
ゴーリーはプレーヤー用の防具では死の危険さえある
手の甲や足に特殊なパッドを装着し、利き手に専用のスティックとブロッキングパッド、反対の手にはキャッチンググローブ、足にはウレタン製の大きなレガースを着けている。プレーヤーより防具も靴も頑丈に作られていて、防具の重さは20キロもある。重たい防具を着ているのに、さまざまな姿勢でシュートを防がなくてはならないため、力持ちの上からだの柔らかい人が選ばれる。小さなゴールに大きなゴーリーがいるとすき間が少ない。選手はパックを浮かせて肩口を狙ったり、股の間、味方のシュートをスティックに当てて軌道を変えたり、シュートフェイントでタイミングをずらせたり、ありとあらゆる工夫で得点を狙う。
リンクの周囲は高いフェンス
ゴール裏にもフェンスがあって跳ね返ってくる。シュートが外れても、パックが外へ出ないのでプレーが止まらない。わざと壁にバウンドさせるパスも可能だ。手や足を使ってパスもできる。
スピード感に溢れて美しいプレイがいっぱい出現
北米プロリーグやオリンピックは氷上の格闘技、世界最高リーグ以外の試合も格闘技。
学生リーグで、特に下部リーグではチームに6人ぴったりしかいないこともある。試合を通じて交代なし。地獄である。しかし見ている方は "がんばらんかい" と声援を送る。人の苦労は楽しい。また下部リーグの試合なら観客席に座らずリンクサイドで観ることもできたりする。フェンスから身体を乗り出せば目の前を選手が走り、冷気が舞う。プレイが一流でなくとも、下手クソだからこそボディチェックが多発し、一触即発になることが多かったりする。それも他人事。声援しまくる。
女子のルール
女子は男子とひとつだけルールが違う。ボディチェックが反則になるということだ。
「ぶちかましのないアイスホッケーなんて、迫力があるの?」
ある。
チェックができないと戦術が進化するのだ。
ときに男子は《リンク》が《リング》になり、全員一斉にけんか、という状況になることがあり、ボールゲーム好きにとっては、
「はよ、試合に戻らんかい!」
となるが、女子では起こりません。
純粋なボールゲームを楽しめる。(たまに険悪ムードになることはあるけれど)
そして日本女子、スマイルジャパンは世界ランク7位。
男子にはNHLというプロリーグがあり、世界中からの選手がプロで戦うが、それぞれの選手を国に戻したナショナルチームとしての国別ランクがある。上位16チームがトップディビジョン、その下に下部リーグがふたつ、というランクづけになっている。冬季オリンピックの出場権はこの世界ランクでも決まる。
女子の世界ランキングは
1カナダ 2アメリカ 3スイス 4フィンランド 5チェコ 6ロシア 7日本 8スウェーデン
(6位になっていたら五輪予選免除だったのに惜しい!)
女子はアメリカとカナダがとんでもなく強い。世界選手権でも3位以下の国に一度も負けていない。これは仕方のない現実。でも日本チームだけがアメリカから2点獲った(10点獲られたけれど)そして獲ったのは当時20歳の新鋭、志賀紅音選手だ。
3〜8位はつねに接戦。オリンピックでも3位の可能性がある、と信じる理由がこのへんにあるのだ!
プレイの自由度が高く、最高のスピードがあり、格闘技的要素が詰まったボールゲーム。 アイスホッケーは、わくわくしっぱなしのスポーツだ。
試合実況、選手の心理、パス、フェイント、シュート、スペシャルな戦術、伝説のプレーヤーたち、小説本文に満載です。(マンガもあり)
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